沙河会戦での「三塊石山」大夜襲
沙河会戦での「三塊石山」大夜襲の決行~「血染めの軍旗」由縁の戦い~
明治37年9月下旬ころから、ロシア軍の行動は、逐次活気を呈してきた。特に、我が第1軍の右翼方面に対する動きが活発化し、9月17日には、すでにレンネンカンプ騎兵団と、サムソノフ支隊は、本渓湖に来襲し、我が梅沢旅団との交戦が始まった。満州軍総司令部は、いよいよロシア軍が迫ってくると判断し、10月10日各軍参謀長を集め、敵の機先を制して10日を期して全軍攻勢を開始するよう命じた。
39聯隊は、10月10日早朝、師団の前進部隊として玉門子北方高地付近に進出し、次いで、「三塊石山」南方の高地を占領して、師団主力の進出を援護した。
戦局はいよいよ両軍激突の様相を呈してきた。第4軍は、「三塊石山」の攻略を企図し、11日、各兵団に攻撃命令を出した。
39聯隊(安村聯隊長)は、右翼支隊として「三塊石山」の右側を攻略すべく、双子山に向かった。その夜、川村師団長より夜を徹して攻撃するよう命令が下った。
攻撃目標を、双子山としたが、「三塊石山」方向より激しい銃声が起こり、その飛弾は39聯隊にも及んだため、ついに午前3時、攻撃目標を「三塊石山」に変更する命令を下した。聯隊が敵前200mくらいの位置に達した時、突如一斉射撃を受け、たちまち数十名の死傷者が出た。しかし聯隊は応射することなく、一歩ずつ敵陣に近づいて行った。
敵は、村落の外郭陣地に後退し、再度激しい射撃を続け、我が方の損害は増すばかりとなった。安村聯隊長は、このままでは全滅の恐れがあると判断し、敵陣地に突入することを決した。聯隊長は、ラッパ手に『君が代』を吹奏させ、続いて大声で「軍人は忠節を尽くすを本分とすべし!」と兵士を鼓舞し、自ら軍旗を保持して陣頭に立ち、全線をあげて、敵陣地に突入して行った。聯隊長は、突進中、腹部を貫通する敵銃弾を受け壮烈な戦死を遂げた。
この壮烈な光景の中で、将兵の士気はますます上がり、獅子奮迅の突撃を敢行した。軍旗は、山脇少尉が変わって奉持し、突進を続けたが、敵の機銃は、ますます熾烈を極め、一弾は旗竿を貫き、旗手に命中、山脇少尉も戦死した。
二人の旗手の鮮血がほとばしって、軍旗は紅に染まった。これが、後世まで語り継がれることになった『血染めの軍旗』の由来である‥。
このようにして、軍旗は一時、聯隊副官である、宮川大尉によって奉持され、次いで第3の旗手、加藤大尉の手に移された。軍旗が、「三塊石山」の頂上に翻ったときには、第4の旗手、長山少尉によって奉持された。このように短時間に旗手の保持者が5名にもなった例は他にはなく、いかに、この会戦が激しかったかを物語るものである。
その後、「三塊石山」の東麓、続いて中腹陣地を占領した。わが軍は、使者を送って、投降勧告したが、敵側からは、返答はなく、残敵約200名は、この地を死守する決意であることが分かった。わが決死隊は、ついに火攻めのため、弾雨を冒し多数の戦死者を出しながら村落に突入、家屋に火を放って掃討戦を開始した。守兵は、誰一人投降することなく、200名ことごとく戦死し、39聯隊はようやく部落を占領した。
時に翌日の午前8時であった。わが軍も勇戦したが、ロシア軍もまたよく戦った。三塊石山は、十里河河畔を一望に見渡せる、戦略上の要所で、クロパトキン将軍は、この点を重視し、「三塊石山さえ死守すれば日本軍に勝利するであろうと」考え、最強の精鋭部隊を投入していた。我が聯隊は、まさにこの強敵と対峙、死闘を展開したのである。
聯隊が投降勧告を出そうとした際、すでに日本軍の捕虜となっていた名誉聯隊長代理は、「死すとも投降するなかれ」と訓示した自分が、どうして投降勧告に行けようか、と言って拒否したという。
クロパトキン将軍は、ノウチェルカスキー聯隊長を呼び、「絶対に降伏してはならぬ」と厳命したと言う。敵ながら“あっぱれ”という他はなかった
その後、明治38年1月の旅順陥落、3月の奉天会戦を経て、5月には、日本軍が、この大戦の勝利を決定づけた「日本海海戦」により、9月には、終戦を意味する「日露講和条約」が、米ポーツマスにおいて締結された。
~その内容の骨子は~
1.全満州において、戦闘を中止する。
2.両軍第一線の中間に隔離地帯を設け、双方この地
帯に立ち入ることを禁ずる。
3.本議定書は、9月16日正午から有効とする。
歩兵第39聯隊出動一覧表(日露戦争関係M37-5-7~M39-2-6のみ)
引用文献等1.「姫路歩兵第三十九聯隊」(挿入写真も引用)昭和58年3月24日刊行編集者:歩兵第三十九聯隊史編集委員会発行者:歩兵第三十九聯隊軍旗奉賛会2.「日本陸軍歩兵部隊」平成3年8月10日初版発行編者:新人物往来社戦史室3.ご協力戴いた方々(1)陸上自衛隊地方協力本部加古川地域事務所様(2)陸上自衛隊姫路駐屯地様(3)日岡神社権禰宜關口洋介様(4)岡田眞理様(岡田義治氏ご息女)
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第1部完
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